TOPPAGE > MUSIC &CULTURE > B-SIDE WINS AGAIN by BEN THE ACE
第3章 スタイルの変遷
第2節 R & Bの時代

1940年代、第2次世界大戦の影響から黒人のアメリカ社会への進出はそれまで以上の規模で進んだ。
より多くの黒人が軍隊への招集に応じ、初の黒人将校も誕生、民間では軍需産業が黒人に多くの職を与え、黒人の都市への移動をさらに促進した。黒人が白人と同じように活躍できるのだということを証明し、これを黒人自身が確信したことで、人種統合という事への可能性を見出したのがこの時代であった。
しかし、そのような理想を求めれば求めるほど人種差別の壁に突き当たる、という現実の社会に対する怒りは増大し、社会的・経済的平等を求める声が日増しに強まっていった。

また、戦争は音楽産業にも大きな変化をもたらした。戦争による経済の緊縮で、レコードの制作が制限され、音響機器の製造も停止された。音楽家組合も、アーティストの録音を1942年から2年間に渡り禁止してしまう。それにもかかわらず戦争の苦しみの中で人々は娯楽を求め、音楽産業のマーケットは1941年から1945年の間に4倍近くまで成長した。 ラジオのレコード売り上げに与える影響はさらに大きくなり、ラジオでの演奏の仕事を失った事で、ビッグバンドの時代は終わりを告げ、フランク・シナトラなどのボーカルものや新しく台頭して来た”R&B”にとって変わられる事になる。

レイス・レコードが大恐慌時代の不況下で廃れて以来、レコード化される黒人音楽といえば白人に受け入れられるようなソフトな白人リスナー向けのものばかりで、黒人の間で発展しつつあった“R&B(リズム&ブルース)”は放置されたままであった。

そのことがR&Bをジャズのように白人向けに漂白されることから逃れさせ、よりブルースの伝統色の強い黒人音楽になることを助ける結果となった。R&Bは白人の音楽マーケットで流行する音楽とは異なる黒人だけの音楽として、以前ブルースが果たしていたのと同様の役割を黒人社会で果たすことになるのである。

やがて大きくなったマーケットの需要に応える形で、それまでのコロンビアやビクターのような大レコード会社以外にも新興レーベルが起こり始めると、大恐慌以降放置されていた黒人音楽市場の開拓が進み、黒人向けのレコードが作られ、黒人向けのラジオ局も次々に解説されて、黒人音楽がより商業性を帯びていくようになった。戦後の新興レコード・レーベルと黒人ラジオの発達はそれを相互に促進し、黒人の生活に欠かせない存在となっていった。

そのような新しい状況において、黒人ラジオのDJ(ディスク・ジョッキー)達は特に重要な役割を果たした。黒人ラジオDJは電波を通じて黒人音楽をアメリカ中に紹介しただけではなく、DJ自身が黒人文化に特徴的な要素である黒人口承文化の継承者として重要な存在となっていくのである。

「DJのパーソナリティと彼のしゃべる言葉のライムは、音楽をインスピレーションとし、微笑みと飽くなき工夫をともなって作り上げられていった。」 
(ネルソン・ジョージ 『リズム&ブルースの死』 ’90年 早川書房)

と、音楽ライターのネルソン・ジョージが表現しているように、その草分け的存在であるアル・ベンソンに代表されるような饒舌な黒人DJ達は、韻をふむ言葉遊びであるライムや、黒人のスラングなどの黒人口承文化の伝統をラジオに持ち込み、その後続のDJ達がこぞって真似を競うほどの人気を得て、アメリカ中にその黒人独特なラジオDJのスタイルを定着させたのである。また、ラジオの黒人社会への貢献はそうした文化的な面だけでなく、地元の黒人コミュニティと密着することで社会的・経済的貢献も果たした。それを示す典型的な例として、ネルソン・ジョージはメンフィスの黒人ラジオ局、WDIAを挙げている。

「WDIAは声の伝言板となった。行方不明の親戚、子供、ペットを探す告知が、広告や音楽の合間に挿入された。大規模なチャリティ・ダンス、安宿の火事など、メンフィスの黒人社会で起きるありとあらゆることがWDIAの電波に乗った。メンフィスの黒人社会の企業や団体ーーパレス、ハンディーと言った劇場、ビール・ストリートのランスキー・ブラザース衣料店、黒人教会ーーは何れも多かれ少なかれWDIAやそのスタッフと取引上の、あるいは社会的なつながりを持っていた。そして、DJは様々な場で司会者として、さらにはプロモーターとして重要な役割を果たすようになった。WDIAはDJを媒体として、メンフィスの黒人経済を象徴し、促進する存在となっていったのである。」
(ネルソン・ジョージ 『リズム&ブルースの死』 ’90年 早川書房)

WDIAのDJだったB・B・キングやルーファス・トーマスが、後にR&Bアーティストとして成功したことは、ラジオ局とDJの人気を象徴しているが、黒人ラジオ局はアメリカの各都市で成功をおさめ、黒人社会に欠かせない存在となったのである。 その人気にもかかわらず、黒人ラジオ局のほとんどは白人所有であり、黒人のDJは同じレベルの白人DJに比べてはるかに低い収入しか得ることができなかった。ラジオ局の収益のほとんどは白人にまわっていたのである。
こうした状況はレコード業界でも同じだった。大手の会社はもちろん、新興レーベルのほとんどはビジネスチャンスを狙っていたユダヤ人や白人所有のものばかりで、黒人アーティストのほとんどは著作権や印税に関して何も知らされず、わずかなギャラを受け取るだけだったのである。

第2次大戦後、黒人の人口が都市に集中し、アメリカの社会・経済機構の一部として完全に組み込まれた黒人は、作家のラルフ・エリソンの小説の題名にもなった『見えない人間』などではなくなっていた。アメリカ社会の各方面に黒人が進出しはじめ、人種差別撤廃運動の成果もわずかではあったが出始めていた。しかし実際の黒人全体に対する見返りは少なく、アメリカ社会の末端の消費者として認められ、経済力を持った黒人社会に白人資本が進出しただけであった。

だが、主流文化のアメリカが初めて黒人に身近に感じられただけでも、当時の黒人にとっては大きな前進に感じられたのだ。黒人としての自尊心の確立という問題よりも、人種のるつぼという考え方に象徴される「人種統合されたアメリカ」という理想の実現を求めて黒人も白人も突き進んでいき、黒人と白人の横の交流は過去には考えられなかったくらい盛んになった。

そのような状況が音楽産業に”ロックンロール”を産み出した背景であった。 R&Bのような純粋な黒人音楽が、黒人ラジオの発達によって白人家庭のラジオのダイアルをひねれば聞こえてくるようになると、革新的な黒人DJのスタイルとともに白人の若者を魅了した。R&Bに歌われる黒人のアメリカ社会からの疎外感と被害者意識が、親や社会に反抗する白人の若者の状況の置き換えられてとらえられ、黒人のスタイル、ファッションを模倣する白人が出現したのである。

白人DJの多くは黒人DJのスタイルを真似し、黒人音楽を”ロックンロール”という名の下に白人聴衆に向けて放送し始め、大成功をおさめる。”ロックンロール”とはセックス(性交)を意味する黒人のスラングだったが、白人DJのアラン・フリードが、黒人を即座に連想させるR&Bという言葉のかわりに、ロックンロールという名の下に白人向けに黒人音楽を紹介し、その呼び名を定着させた。

ロックンロールは黒人音楽の白人向けマーケットの発見ではあったが、その利益を得たのは黒人アーティストよりもそれを真似た白人のイミテーター(模倣者)のほうだった。エルビス・プレスリーに代表される白人ロック・アーティストはR&Bのカヴァー・バージョンを歌い、その黒人アーティスト以上の人気を得て、ロックンロールのマーケットはさらに拡大していった。

こうして白人による黒人音楽の盗用、利益の独占はここでも繰り返される。ロックンロールの人気によって黒人音楽の一側面は脚光を浴びたものの、白人ロッカーに模倣されたスタイルを時代遅れのものとされただけで、黒人アーティストや黒人社会にはほとんど利益がなかった。それよりも黒人社会では公民権運動の高まりの中で起こりつつあった”ソウル”という概念に表現される新たなスタイルを信奉し始めていたのである。

第3章3節へ続く・・・

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BEN THE ACE [ヒップホップDJ/プロデューサー]
宮城県出身 早稲田大学第二文学部卒
大学在学中の89年から東京でクラブDJを始め、93年YOU THE ROCK &DJ BEN「TIGHT BUT FAT」でデビュー。卒業後の95年からニューヨークに渡る。翌96年にインディーレーベル SPELLBOUND RECORDを設立、TWIGYとMUROのソロ作品をリリース。99年から日本に戻り、K DUB SHINE、雷家族、キングギドラ、プシンetc.のプロデュ-スやリミックスを手掛け、DJとしてはミックステープを多数リリースしている。

DJ ミックスショウ:
スカパー(466Ch)スターデジオ ”デリシャス・サウンズ”
Shibuya-FM (毎月最終金曜1-2PM)/"World Famous"
ブログ:
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